エレクトーンコンサート
2006.3.5
7人それぞれが音楽に託した"愛"に酔いしれたひと夜
毎年行われる三木楽器主催のコンサート。今夜は"Love Songs"をテーマに、7人のプレイヤーがさまざまな"愛"を奏でた。
本誌2月号の巻頭特集でご紹介した、7人のプレイヤーがそれぞれの思いをこめた「ラブソング」。誌面では音をお聴かせできないのが本当に残念だが、その模様と会場の空気を少しでも感じてもらえればと思う。
波の音が流れる中、ひとり目の高田和泉が、春の訪れを感じさせる柔らかな色合いの衣装で登場。彼女の愛する神戸の街をイメージして作られた「WINDSCAPE」の爽快な演奏で、コンサートは幕を開けた。2曲目は、哀しくも美しいメロディーのバラード「In Our Tears」。震災で恩師を亡くすなど哀しい経験もしたが、最後には前を向き"希望"を持とうという思いを託した。
続いては加曽利康之と冴咲賢一(FUNKY FOX)のふたり。冴咲の書いた珠玉のバラード3曲をメドレーにした「Love…My memories collection」と加曽利の「Starry Night」。来年結成20周年を迎える円熟のユニットによるラブソングは、立体感豊かなサウンドと、このふたりの演奏だから味わえる余裕と安心感、そして、ところどころに潜ませた適度な緊張感に、ロマンティックで心地よい時間が流れてゆく。本当にあっという間の2曲…。
この三木楽器主催のコンサートの常連、この人なしではこのコンサートシリーズも考えられない窪田宏。出演者のカラーで舞台のセットや照明が凝らされた今年のステージだが、セピア色のニューヨークの風景写真が印象的に浮かび上がり、一気にクールなアーバンジャズのシーンへ転換する。ボーカルとラップをフィーチャーした「KOOL Tune」とミディアムスローの甘くかつスタイリッシュな「Smooth In Love」を続けて演奏。最後は美しいピアノと弦のバラード「Sat'is-fy」。ぐっと引き込まれる集中力の高い演奏。ライヴの醍醐味とはこの瞬間にあるのだ。
演奏後、鷹野雅史をステージに呼び込んだ窪田は、くだけた笑顔と会話で会場を笑わせる。先輩には頭が上がらないという鷹野のささやかな抵抗も一蹴し(笑)、ブレイクタイム。ほどよく会場もほぐされ、鷹野の演奏へ。
このコンサートシリーズ初登場にして、この1曲を全力投球で演奏。鷹野のオリジナルの大曲「曼荼羅」だ。熊野古道を描く"自然愛"がテーマの映像的な楽曲は、彼が率いるSTAGEAフィルの壮大なオーケストラサウンドに鳥の声や水の音も紡がれ、いにしえの時空まで観客を誘った。最後は沈黙のフェルマータ…。
続いてラブソングと聞いて、心に"想い"が広がり、そしてそれが自然と"あふれる"ことを想起したという安藤禎央の演奏。真摯に情緒深く演奏する姿に、観客の想いがあふれ出す。安藤のレパートリーの中でも、とりわけ心を揺さぶられる3曲を演奏。会場内の空気が安藤の色に染まり、誰もがうっとりと安藤ワールドに浸るのがわかる。
この日のプログラム最後は柏木玲子の登場。彼女にとって曲を書くという行為はラブソング=歌を愛すること。さりげなく心地よい風のような「Afternoon Café」をシンプルにナチュラルに奏でる。それでいて聴く人の深いところへ届くのだから、たいへんな人だ。続くサックスの福井健太とのデュオは2001年9月11日にニューヨークで起こった悲しい出来事に心を痛めて作った「September in Blue」。短調から長調へメロディーとサウンドが移ろいながら、心に突き刺さる"祈り"。世界中の人々が同じように愛し合えるようになる日まで、祈り続けるだけ…。
アンコールの安藤の「GLORIA - 式典ver.」は、それでも愛を信じよう、そんなエールとなり、帰途へつく観客へのこの夜最後のラブソングとなった。
(文/編集部 月刊エレクトーン5月号より)
Photo by 田中大造